芸術が宮廷や教会からの束縛を離れたとき、「宗教的および形而上学的世界像」を克服する、あらたな別の価値が見いだされなくてはならなかったが、音楽の領域においては、ベートーヴェンのハイリゲンシュタットの遺言(1802年)に記された芸術としての音楽確立の宣言まで待たなくてはならなかった。それはニーチェによれば、フランス革命(1789年)前夜にゲーテを筆頭に始まっていた文学や絵画における運動の展開のスピードからすれば苛立たしいほどの進歩の遅さであったが、とにもかくにも市民に開放された音楽は、彼らが必要とする形へと変化をせざるを得なくなり、これまでの価値観が崩壊した社会は新たな共同体の倫理の構築を迫られることとなった。そのナラティブとして参照されたのが古代ギリシアの悲劇、アリストテレスの『詩学』からシェリング・ヘルダーリン・ヘーゲルといったドイツ観念論・ロマン主義を経てショーペンハウアー、ニーチェに至る流れであり、それは神が死ぬことで再構成された。一方で、その流れは音楽の領域においては、初期のニーチェによれば、バッハ、ベートーヴェンを経てワーグナーに至るとされたが、オペラを中心とした標題音楽を体現するワーグナーと熱狂的な支持者であるワグネリアンに対する反発から、感情を導き出す歌詞や演出を排し、純粋に和音や旋律などの音楽のみの自律的価値基準で評価されるべきという音楽美学の登場により、音楽が唯物論的な方向へ引っ張られ、それこそ「苛立たしいほどの進歩の遅さ」による時間差により、不毛な20 世紀的なイデオロギー論争に巻き込まれるという悲劇が生み出されることとなった。この文脈で、音楽の精緻を極めたベートーヴェンの交響曲第5 番を理解しようとするとき、実際には『運命』という標題に導かれてインスピレーションを得た作曲家が多いにも関わらず、絶対音楽のプロトタイプとしてヨーロッパにおいて『運命』と標題を付けることは一般的ではないという解説を聞く理由がよくわかるのである。現在、フランス革命以来の価値観の転換を強いられる気配が漂う情勢のなか、新たな共同体の倫理の構築に向けた議論が求められる可能性があるが、その役割をともするとAI に担わせかねない現代の怠惰な我々に、本演奏会が、当時、新たな価値創造を成し遂げた先人の苦悩と格闘の痕を感じ取る機会となれば幸いである。
出演者
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指揮
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さいたまシティ・フィルハーモニー管弦楽団
管弦楽
入場・チケット購入
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入場料当日券(全席自由)500円
2026年3月28日(土)より、teketにて前売り券(入場料無料)をお申し込みいただけます。
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