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知られざる名曲に光を──ヴァイオリニスト高橋和歌が奏でる、今を生きる音楽

2025/07/07

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クラシック音楽は「昔の音楽」だと思っていませんか?

確かにベートーヴェンやバッハなど、歴史に名を刻んだ作曲家の作品が多く演奏されてきたのは事実です。しかし、現代に生きる作曲家たちが紡ぎ出す“いまの音楽”もまた、私たちの感性に深く響く魅力を秘めています。

そんな「現代のクラシック」と真摯に向き合い、表現し続けているヴァイオリニストがいます。高橋和歌さんは、ソリストとしてのリサイタルやアンサンブルでの演奏活動に加え、日本人作曲家による新作を数多く初演。その音楽を、地域のホールや学校、さらには0歳児から楽しめる親子向けコンサートなど、さまざまなかたちで届けています。

「譜面を見れば、その人がわかる」。そう語る高橋さんが奏でるのは、言葉では伝えきれない想い。音楽を通して、作曲家と、聴く人と、時代とをつないでいく——そんな静かな熱を持った音楽家です。

今回は、高橋さんの普段の活動、9月に控えるリサイタル、そして今後の展望についてお話を伺いました。

高橋和歌(Waka Takahashi)
ヴァイオリニスト。広島県出身。桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学を卒業後、同大学附属研究科、大学院大学、オーケストラ・アカデミー研修課程を修了。

全日本学生音楽コンクール大阪大会第1位、江藤俊哉ヴァイオリンコンクール第2位、ルーマニア音楽コンクール第1位など受賞多数。広島交響楽団、東京シティ・フィル、日本フィルなどのオーケストラとも共演を重ねる。2003年に広島市文化財団の助成を得てデビューリサイタルを開催。以降も定期的にリサイタルを開催し、高い評価を得ている。

演奏活動はソロにとどまらず、室内楽にも積極的に取り組む。アンサンブル鴻巣ヴィルトゥオーゾ、目黒弦楽四重奏団、アウル・ピアノ・クインテットなど複数の団体に所属し、地域に根ざした活動も展開している。特に近年は、現代の日本人作曲家による作品を積極的に取り上げ、その初演や普及に尽力。音楽を通じて、作曲家の想いを「今」に届けることを大切にしている。

2008年からは文化庁「公共ホール音楽活性化事業」の登録アーティストとして全国各地で演奏活動を行い、学校や福祉施設などでもクラシック音楽を身近に感じられるコンサートを続けている。

リリースCDには『Solo.Waka』『cantabile』『Salley Garden』などがあり、バッハ《シャコンヌ》やパガニーニ《ソロ・ソナタ》などの演奏は各界から高い評価を受けている。

現在、桐朋学園大学音楽学部附属「子供のための音楽教室」講師を務める。

——まずは普段の演奏活動について伺います。高橋さんは、どのような形態でコンサートに出演されることが多いのでしょうか。

高橋いわゆる「ソリスト」としての演奏もありますが、最近は無伴奏ヴァイオリンという形で依頼されることが多いですね。それに加えて、室内楽でもさまざまな形で演奏しています。オーケストラとの共演はあまり多くないのですが、弦楽八重奏のような少し大きめの編成での室内楽も、日常的な活動の中に取り入れています。

特に大切にしているのは、日本人の現代作曲家による作品を取り上げることです。作曲家がご存命のうちに、その方の作品に向き合えるというのは、演奏家として非常に贅沢なことだと感じています。作品について直接お話を伺えますし、初演や委嘱作品などにも携わる機会が多く、ほとんどの公演でそうした作品をプログラムに組み込むようにしています。

いわゆるクラシック音楽の世界では、西洋の古典作品に注目が集まりがちですが、それだけではもったいないと思っています。現代音楽というと難解で敷居が高いイメージを持たれることもありますが、実際には映画音楽のような親しみやすい作品や、古典の様式を受け継いだ美しい旋律を持つ作品も数多くあります。日本には素晴らしい作曲家がたくさんいて、演奏家として、そうした作品と聴衆をつなげる役割を担いたいと感じています。

作曲家の方との出会いも、学生時代のご縁に限らず、まったく面識のない方から楽譜を送っていただくこともあります。インターネットで私の活動を知ってくださった方が、「ぜひ演奏してほしい」と連絡をくださることもありました。

普通であれば少し躊躇してしまいそうなご縁でも、譜面を通してその方の想いが伝わってくることがあるんです。言葉で自己紹介されるよりも、楽譜の方がずっと雄弁な場合もありますから。だからこそ、安心して作品に向き合うことができる。そんなふうに感じながら、今も細く長く、そうした活動を続けています。

——日本人の現代作曲家による作品を取り上げるというのは、高橋さんならではのユニークな取り組みですね。9月には、リサイタルを控えられていますが、今回の公演はどのような内容なのでしょうか。

高橋和歌ヴァイオリン・リサイタル Chants de Paix 1er

日時:2025年09月29日(月) 14:00開演

場所:めぐろパーシモン 小ホール(東京都)

詳細 : https://www.concertsquare.jp/blog/2025/202506278630089.html


高橋和歌がその技巧と表現力を余すことなく披露するヴァイオリン・リサイタル。
今回のプログラムはバロックの名手ヘンデルからロマン派のヴュータン、現代作曲家を経て、J.S.バッハに時代が回帰する構成となる、全てが無伴奏のプログラムである。
コンサート開演前には、日本人作曲家3名によるプレトークも開催される。
聴きにくいと思われがちな現代音楽も、高橋の素晴らしいヴァイオリンによって安心して楽しんでもらえること間違いなしである。

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高橋久しぶりに、自分の企画によるリサイタルを開催することになりました。今回のプログラムでは、日本人の現代作曲家3名の作品と、バッハの《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番》を取り上げます。

香月修先生は、私の大学院の恩師で、香月先生の他の作品は何度か演奏させていただいたことがあります。今回演奏する《詩曲Ⅰ》は名ヴァイオリニストによって繰り返し弾かれていますが、超難曲なためここ10年は演奏されていないとか。

久行敏彦先生の《風の詩Ⅹ》は昨年、私が初演させていただきましたが、今回は初演時の反省点を踏まえ久行先生と協議し改訂して再演させていただくことになりました。

高橋幸代先生の《光の譜》は、このリサイタルのために書いていただくものです。幸代先生の1ファンとして初演ができるのがとても幸せなのです。

ただ、やはり日本人作曲家の名前がチラシに並ぶと、「聞いたことがないから…」と少し敬遠されてしまうことがあるのも事実です。モーツァルトやベートーヴェンといった馴染みのある名前があれば足を運んでくださる方でも、現代の日本人作曲家となると、どうしても関心が薄くなってしまうことがあるんですね。

でも、本当に素晴らしい作品がたくさんありますし、できるだけ多くの方にその魅力を届けたいと思っています。そこで今回は、演奏の前に作曲家3名によるプレトークの時間を設けることにしました。それぞれのご自身の作品についてだけでなく、バッハの時代から現代に至る音楽の流れや、クラシック音楽とのつながりについてもお話しいただく予定です。

現代音楽にあまり馴染みのない方にも、より身近に感じていただけるきっかけになればと思っています。

——曲について知ってもらってから、実際に聞いていただくというのは面白い試みですね。プログラムの構成は、どのように決められたのでしょうか。

高橋今回のリサイタルでは、バッハの《シャコンヌ》を最後に演奏します。ヴァイオリンを弾く者にとって、とても大きな意味を持つ作品で、私自身、これまで何度も演奏してきた大切な曲です。

シャコンヌを中心に据えて、そこへどう繋いでいくか。さらに、自分が大切にしている日本人作曲家の作品も組み込みたい。そうしてプログラムを組み立てていきました。地方のコンサートでは主催者側から「この曲を入れてください」とご要望をいただくこともあるのですが、今回は完全に自分の発意によるプログラムだったので、自由に構成させていただきました。

いろんな経験を経て、今あらためてシャコンヌを演奏することにも、自分自身で興味がありました。これまでとはまた違った表現ができるのではないかと感じています。

——9月のリサイタルに先立ち、8月にもコンサートを予定されていますね。どのような内容の公演でしょうか。

音楽の宝箱 〜クラシックの扉をひらこう〜

日時:2025年08月03日 (日) 11:00開演, 14:00開演

場所:鈴木延子バレエスタジオ(東京都)

申込 : https://form.os7.biz/f/c2fca6a5/


【出演】
中野亜維里 ソプラノ
新津耕平 テノール
高橋和歌 ヴァイオリン
児玉真理 ヴァイオリン
井上八世以 ヴィオラ
迫本章子 チェロ
岩下真麻 ピアノ

【曲目】
メリー・ウィドウ・ワルツ
私のお父さん
オー・ソレ・ミオ
フニクリ・フニクラ
小犬のワルツ
踊る子猫
弦楽四重奏曲「アメリカ」
くるみ割り人形
ほか

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高橋8月3日に「音楽の宝箱〜クラシックのとびらをひらこう〜」という親子向けのコンサートを行います。これはもう長く続けている取り組みで、ソプラノ、テノール、弦楽四重奏、ピアノといった編成で、小さなお子さんとそのご家族にも楽しんでいただけるようなプログラムをお届けしています。

クラシックの名曲を中心に、季節感のある曲や、耳馴染みのある作品を集めていて、毎年クリスマスの時期にも開催しているシリーズの夏版です。

0歳からご入場いただけるので、保護者の方々からは「普段はクラシックコンサートに子どもを連れて行けないけれど、今日は安心して聴けた」といったお声をよくいただきます。

また、会場の扉を開放して授乳スペースを設けたり、泣いてしまってもすぐに外に出られるようにしたり、なるべくプレッシャーのない環境づくりを心がけています。そういった工夫が「気が楽で嬉しかった」と感じていただけるようで、公演も毎回早めにチケットが完売するほどご好評をいただいています。

——お子さんにとっての音楽体験の場であると同時に、保護者の方にとっても貴重な時間になっているのですね。

高橋そう思います。子育て中はなかなかコンサートに足を運べない方も多いと思いますし、そんな方々にも音楽の時間を届けられたら嬉しいですね。クラシック音楽は「静かにしなきゃいけない」というイメージが強いかもしれませんが、そういった固定観念にとらわれず、もっと自由に楽しんでもらえたらいいなと感じています。

——高橋さんは、「公共ホール音楽活性化事業登録アーティスト」としての活動にも長年取り組まれていますが、この事業に参画されたきっかけを教えていただけますか。

高橋私は広島出身で、小学校時代は島根県松江市という、いわゆる“クラシック音楽の過疎地”で育ちました。子どもの頃、もっといろんなコンサートに行きたかったんですけど、なかなかそういう機会がなかったんです。たまに海外の演奏家が来ることがあっても、子どもが足を運べるような内容ではないなど、チャンスそのものが少なかったんです。

そういった原体験があって、「クラシック音楽に触れる機会がもっと身近にあってほしい」と思うようになりました。それが、この事業に参加したきっかけです。

演奏の中心は、地方の公共ホールです。ただ、ホールでのコンサートだけでなく、地域の小学校や中学校、特別支援学校、老人福祉施設、病院なども回ります。1回のツアーで、8公演くらい行うこともありますね。

現地に数日間滞在して、その地域の方々と直接ふれ合いながら、最後にホールでの本公演を行うという流れです。最初はお客様の数も少なかったりするんですが、繰り返し伺ううちに「また来てくれるんだ」と親しみを感じてくださって、ホールにも多くの方が足を運んでくれるようになるんです。中には「第二のふるさと」と呼べるような場所もありますし、「第二のお母さん」みたいな方もいらっしゃって、個人的にもすごく大切な活動です。

——地域の方々と信頼関係を築きながら、クラシック音楽を届けていくという、とても意義深い活動ですね。

高橋私自身が「音楽に触れたくても触れられなかった子ども」だったからこそ、そうした地域の子どもたちに、生の演奏を届ける意義を強く感じています。音楽が身近になるきっかけは、本当に小さな体験から始まると思うんです。だからこそ、この活動はこれからも大切にしていきたいですね。

——最後に、今後予定されている演奏活動について、差し支えない範囲で教えていただけますか。

高橋11月には、ヴァイオリンと尺八のための新作の初演を予定しています。作曲してくださったのは、尺八作品を多く手がけられている金田潮兒先生で、実はこの編成での作品は私にとって初めての挑戦になります。

そもそも、私が以前に金田先生の弦楽四重奏曲を演奏したことがあって、それがきっかけで「ヴァイオリンと尺八を組み合わせたら、どんな音楽になるだろう?」と興味を持ってくださったようなんです。まだリハーサルはこれからなのですが、どんな響きになるのか、今からとても楽しみにしています。

——本日は貴重なお話をありがとうございました!

高橋和歌さんは、ジャンルや形式にとらわれることなく、ひとつひとつの作品と丁寧に向き合い、音楽を通して多くの人と出会い続けてきました。

クラシック音楽は“過去の芸術”ではない。いま、この瞬間にも、誰かのために生まれている音楽がある。そのことを、確かな演奏と静かな情熱で伝え続ける高橋さんの姿に、クラシックの未来を感じずにはいられません。

(インタビュー・構成/松永華佳)

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