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知られざる名曲に光を——サクソフォン奏者・吉岡克倫が挑む「邦人作品」開拓プロジェクト

2025/10/14

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コンサートのフライヤーには、いつも同じ「定番作品」が並んでいる——サクソフォン奏者の吉岡克倫さんは、その現状に長年疑問を抱いていました。日本の音楽界には、知られざる邦人名曲が数多く埋もれてしまっています。

この状況を変えるため、吉岡さんはSNSで邦人作品の情報を発信。すると、予想外の大きな反響があり、作曲家の先生方から「実はこんな曲を書いている」という情報が次々と集まるように。

今や全国各地で「邦人プロジェクト」を展開し、作曲家と直接対話しながら、日本の音楽の新たな可能性を切り拓いています。その原動力となった邦人作品の魅力から、11月28日に控えるコンサート「不易流行の響き」の魅力まで、邦人作品を広める吉岡さんの活動の軌跡に迫ります。

吉岡克倫(よしおか・かつのり)
サクソフォン奏者。大阪府門真市出身、東京都国立市在住。2013年東海大学付属仰星高等学校卒業、2020年尚美ミュージックカレッジ専門学校音楽総合アカデミー学科卒業。学生時代から数々のコンクールで受賞を重ね、これまでにサクソフォンを波多江史朗、オリタ・ノボッタ、國末貞仁、森下知子の各氏に師事。2017年度から大阪・高知・東京でトリオ編成でのコンサート活動を開始し、「邦人プロジェクト」シリーズで日本人作曲家の作品を積極的に紹介。毎回新作委嘱を行い、特に福島弘和氏、てらだだいき氏の作品は各地で好評を博している。

——本日はよろしくお願いします!サクソフォンで邦人の楽曲を演奏する奏者は珍しいように感じます。吉岡さんが、「邦人プロジェクト」に取り組むようになった経緯を教えてください。

吉岡学生時代、私はサクソフォンの主流であるフランス作品ばかりを演奏していて、将来もそうした有名な海外作品を中心に活動するものだと思っていました。

しかし、長年親交のある音楽家、松下洋さんのコンサートを拝見した際、大きな衝撃を受けました。そのコンサートは、邦人作品だけでセットリストが組まれており、しかも楽曲の約8割が新曲や世界初演という、本当に素晴らしい内容だったのです。

心の中ではずっと邦人作品への思いがあったものの、学生時代の試験では決められたレパートリーしか演奏できず、邦人作品を扱う機会はありませんでした。そのため、卒業後にリサイタルを開催した際も、最初はフランスやアメリカの作品が中心でした。それでも、「やはり邦人作品を手掛けたい」という気持ちが募り、現在の活動を始めるに至りました。

——邦人作品を中心に組まれたコンサートを見た時の衝撃が、今の活動を始める原動力となったんですね。吉岡さんをそこまで突き動かす邦人作品の魅力とは、一体何なのでしょうか。

吉岡日本人の作品は、私たち日本人にとって非常に演奏しやすいという点が最も大きな理由です。フランス作品のメロディーラインは、自身の感覚に合わないと感じることも少なくなかったんです。

邦人作品が演奏しやすい理由として、言語的にフレージングの取りやすさや、邦人作曲家の作品に多く見られる「和」の要素が私たち日本人にとって非常にイメージしやすいことが挙げられます。例えば、ピアノの前奏を聴くだけで、「これは秋の情景だ」とか、「冬の冷たさや悲しみを表している」といった意図が明確に理解でき、演奏する際にも解釈を表現しやすいのです。

加えて、作曲家と直接会えるというのも大きな利点です。対面でコミュニケーションが円滑に取れるため、作品への理解を深める作業が非常に容易になります。

——確かに、作曲家と同じナショナリティを持つ音楽家が演奏することで、曲の魅力を最大限引き出すことができそうですね。一方で、吉岡さんのように邦人作品を扱う音楽家はまだまだ少なく、埋もれてしまっている名曲も多いのではないでしょうか。

吉岡そうなんです。正直、私自身も不思議に思っているところです。「邦人プロジェクト」を広げ始めてから、本当に多くの楽曲があることに気づかされました。例えば、オーケストラで活躍されている大先生方が、実は大昔にサクソフォンの曲を書いていらした、というケースも少なくありません。

良い曲がたくさん生み出されているにも関わらず、なかなか聴衆に届けられていないというのはある種の「課題」だと感じています。もちろん演奏されていないわけではないのですが、コンサートのチラシを見ると、やはりいつも同じ「定番作品」が並んでいることが多いんです。もっと他にも素晴らしい楽曲がたくさんあるのに、と常々疑問に思っています。

——その「課題」に対し、吉岡さんはどのようにアクションを取ったのでしょうか。

吉岡コロナ禍に邦人作品の情報をSNSに投稿したところ、予想外の大きな反響があったことが、活動を広げる大きなきっかけになりました。

時間に余裕ができた時、邦人作品がどれくらいあるのかを調べてXに投稿してみたんです。それまで自分も知らなかったような曲を紹介してみたところ、驚くほどの反響をいただきました。

そして、これまで繋がりのなかった若手から著名な作曲家の先生方まで、多くの方からメッセージをいただきました。「実は自分もこんな曲を書いている」「こういう名曲もある」と教えていただき、本当に自分は何も知らなかったんだと痛感しました。

そうした繋がりから、2回目のリサイタルで邦人作品のみのプログラムを組みました。終演後、ある作家の先生が「こういった(邦人作品を広める)活動ができるのは、君しかいないよ」と声をかけてくださったんです。その一言が私の心に深く刺さり、「この活動を通して、邦人作品を広めよう」と決意を固めました。

——邦人プロジェクトをスタートした後、影響を与えてくださった作曲家や支えとなっている音楽家はいますか。

吉岡はい、福島弘和先生との出会いがなければ、今の自分はありません。中学時代からの大ファンで、たまたま大学で先生の授業を受ける機会があり、すぐに声をかけさせていただきました。

私がその当時の演奏会で尺が足りず困っていた時、先生に「何か曲はないか」と相談したところ、わざわざ書き下ろしてくださったのが始まりです。

当初は先生の既存曲をサクソフォン用に編曲していただいていました。しかし、先に話した松下さんのコンサートで衝撃を受けた翌日、先生に会いに行き、「私のために新しい曲を書いていただきたい」とお願いしました。

当時、結構な覚悟が必要な申し出だったのですが、先生は二つ返事で快諾してくださり、そこから私が福島先生の作品を演奏していることが業界内で知られるようになり、邦人作家の皆様とのコネクションが一気に広がっていきました。

福島先生の存在なくして、私の音楽人生は成り立たないと思っています。

——直近では、11月28日に「邦人プロジェクト~第二夜~『不易流行の響き』」を控えていらっしゃいますね。今回のコンサートでは、どのようなコンセプトを掲げていますか。

邦人プロジェクト~第二夜~『不易流行の響き』

日時:2025年11月28日(金) 19:00開演

場所:KMアートホール

購入:https://teket.jp/7237/53152


○出演
吉岡克倫(Saxophone)、大嶋千暁(Piano)

○曲目
・福田洋介/手紙
・福島弘和/古典組曲【2022年度委嘱作品】
・高昌帥/ぬばたまの…
・近藤悠介/幻冬のラプソディア【初演】
・佐藤信人/最後の贈り物
・高橋宏樹/The Last County
・足立正/眠らせ歌
・朴守賢/a Song
・北爪道夫/Air Ⅰ
・山本愛花音/プレゼント【2024年度委嘱作品】
《邦人プロジェクト・テーマソング》

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吉岡今回のコンサートの核となるテーマは、全日本吹奏楽コンクール課題曲を手がけた作曲家の室内楽作品特集です。

当初は、私が演奏したい曲をいくつかピックアップしていたのですが、よく見ると歴代の課題曲を手掛けられた先生方の作品ばかりだと気づいたんです。そこで、その中から特に聞いていただきたい曲、再演したい曲を選んでプログラムを組みました。

また、自分の「持ち曲」と言ってもいいぐらいの福島弘和先生の作品も演奏したかったので、そこを軸にして広げていきました。

——コンサートのタイトルも個性的で目を引きますね。今年2月に行われた「故郷にて、三十にして立つ」も非常にかっこ良く、タイトルに込めるこだわりについてお聞きしたいと思っていました。今回は「不易流行の響き」と銘打っていらっしゃいますが、どのような思いを込められたのですか。

吉岡改めて深掘りされるとちょっと恥ずかしいのですが…(笑)。「故郷にて、三十にして立つ」は、自分が30歳になる記念のリサイタルだったんです。しかし、「記念リサイタル」という名前では面白くないと思い、論語から言葉を借りてきました。実はフライヤーも自分で作っています。

今回の「不易流行の響き」は、「吹奏楽作家の室内楽作品特集」というコンセプトに沿って考えました。「不易流行」は、時代を超えて変わらない本質的なもの(不易)を大切にしながら、時代の変化に合わせて新しいもの(流行)を取り入れていくことを意味します。

吹奏楽と室内楽の違いや、邦人作品の普遍的な魅力を伝えたいという思いを込めました。

——タイトルからもこだわりが感じられるコンサートですが、今回のプログラムの中で特に一押しの楽曲を教えてください。

吉岡今回は、同世代で親交のある近藤悠介さんの新曲「幻冬のラプソディア」を初演いたします。元々、近藤さんの既存曲を演奏する予定でしたが、彼が「せっかくやるなら新曲を書かせて!」と言ってくれたんです。

この曲の元になったのは全4楽章からなる吹奏楽の曲で、日本の四季がテーマになっています。その中から「冬」をテーマにした楽章を、サクソフォンとピアノのために新たに書き下ろしていただきました。

——曲の中で、日本の冬らしさが光る部分はどんなところですか。

吉岡「幻冬のラプソディア」は、和声で見てもメロディーで見ても、どこかに陰りがあるような、単純に「美しい」では表せない情景が、ずっと曲の緊張感を高めています。ちょっとだけフォルテに行くパートはあるものの、フォルティッシモまでは行かずに、すぐにピアノに戻る。

儚く寂しい世界観が最後まで持続します。この落ち着いた感覚が、日本の静かで情緒的な冬のイメージにすごくマッチしていると感じています。

近藤さんは実際に日本の渓谷などへフィールドワークに出かけて、インスピレーションを得て作曲しています。そのため、曲から実際の景色が想像できるような、とても面白い作品に仕上がっていると思います。

——まさに「知られざる名曲」を発掘し、光を当てる、邦人プロジェクトのコンセプトと合致するようなコンサートとなりそうですね。

吉岡ありがとうございます。過去のリサイタルで演奏した朴守賢さんの無伴奏曲など、邦人プロジェクトだからこそ実現できた再演や新曲が並びます。ぜひ、会場で日本の作曲家が生み出すサクソフォンの「響き」を体験していただきたいです。

——最後に、コンサートスクウェア読者の方に伝えたいことはありますか。

吉岡作曲家は意外と私たち演奏家や聴衆のフィードバックを求めている、ということを知ってもらえたら嬉しいです。

アマチュアであろうとプロであろうと、演奏している方にとって作曲家は「すごく高尚な先生」というイメージがあると思います。しかし、実際は意外と身近な存在で、手の届くところにいるんです。

作曲家の方々も、多くの人の意見や演奏を聴きたいと思ってくださっています。率直に「いいな」と感じた曲や作曲家がいたら、臆せずコンタクトを取ってみてほしいです。

今はインターネットが発達した時代ですから、「この曲が好き」「ここが良かった」という感想を直接作曲家に伝えることができます。実はそういったフィードバックはとても喜ばれますし、それがレパートリーの拡大や、曲の出版につながっていくかもしれません。

——吉岡さん、ありがとうございました!

吉岡さんの活動は、日本で生まれた多くの隠れた名曲に光を当て、作曲家と演奏家、そして聴衆をつなぐ貴重な架け橋となっています。

11月28日に開催を控えた「邦人プロジェクト~第二夜~『不易流行の響き』」は、日本の音楽文化の豊かさを再認識する、またとない機会となるに違いありません。

(インタビュー・構成/松永華佳)

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