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2025/10/13
川崎市麻生区に根ざし、40年以上にわたって音楽を届けてきた麻生フィルハーモニー管弦楽団(以下「麻生フィル」と表記)。 常任指揮者を置かず、毎回異なる指揮者やプロ奏者と共演しながら、多様な表現を提供してきた市民オーケストラだ。近年は小学生招待企画やファミリーコンサートなど、裾野を広げる取り組みにも力を入れ、「音楽をもっと身近に」という思いを地域と共有している。 10月19日に開催を控える秋の定期演奏会では、ワーグナー、ベートーヴェン、ブラームスといったドイツ音楽の名曲が並ぶ。団員が語るのは作品への熱い思いや難解な演奏への挑戦心、そして地域とともに歩む未来への展望。麻生フィルが紡ぐ音楽の物語に、耳を澄ませてみたい。
——麻生フィルは40周年を2年前(2023年)に迎えられました。佐々木さんが麻生フィルに関わるようになったきっかけをお聞かせいただけますか
佐々木高校でオーケストラを始め、大学からはチェロです。卒業後は学校OBのオーケストラで活動していましたが、引っ越しを機に演奏から離れていた時期がありました。麻生区に住むようになって「近くでまた弾きたいな」とたまたま調べたら、麻生区にオーケストラがあると知って。すぐ見学をお願いしたのが始まりです。
——入団時の雰囲気はいかがでしたか?
佐々木まず“和気あいあい”を感じました(笑)市民オーケストラはバックグラウンドが多様ですが、その中でも麻生フィルは仲良く活動している印象でした。ただ仲が良いだけでなく、毎回新しい演奏に挑んでいく空気がある。そこも魅力的に映りました。
——麻生フィルの特色の一つに「常任指揮者を置かない」方針があります。佐々木さんはどのような利点を感じておりますか
佐々木毎回違う指揮者・プロ奏者から多様な音楽性や世界観を学べる点です。常任の指揮者を置くことは団内の安定や様式の共有に強みがありますが、同じ枠に収まりがちな面も否めません。 麻生フィルは毎回“予期せぬ音楽の見方”と出会えます。そのたびに次のステップに押し上げられていく感覚があるんです。
——楽団の長い歴史の中で、印象的な体験は?
佐々木2013年に開催された創立 30 周年記念コンサートの直前に、予定されていた指揮者の方が急病で登壇できなくなってしまったことがありました。節目の大舞台ですから不安が広がりました。 そこで急遽、広上淳一先生が代わりに振ってくださることになったんです。前日のリハーサルと本番だけという綱渡りな状況でしたが、本番の演奏は素晴らしい完成度でした。 あの時は“こんなことができるんだ”と、団体の底力と仲間の絆を実感し、大変感動しました。
——それはすごい!メンバーも関係者の方も、麻生フィルに対して大事な思いを抱いていることが伝わります。地域と麻生フィルとの関係についても、お伺いできますでしょうか
佐々木“実は地元でも意外と知られていない”という現実に向き合いました。 そこで昨年から発信の仕方を根本的に見直すことにしました。今夏は川崎市内の小学校へチラシを配布して、小学生とその保護者を招待するという企画を実施してみたんです。すると想定を大きく超える応募があり、来場は1500人を超えました。 情報が届けば、反応は返ってくる――。手応えを強く感じました。麻生区は高齢者も多いので、気軽に足を運べる仕組みづくりも課題として捉えています。
——運営面も麻生フィルの特徴だとお聞きしました。マネージャーを務める宮地さんにもお話を伺います。
宮地マネージャーは、各公演滞りなく進むための進行役と思っています。団員は演奏以外のなんらかの係の役割も持っています。会場の確保や印刷物、楽器や楽譜管理、演奏会準備関係など、お互いに相談しながら進めています。広報は佐々木さんのような外部に向けたものだけでなく、「麻生フィルだより」として団内共有の場があり、創団当時の紙印刷から今はメール発行に変わりましたが、現在967号が発行されたところです。 団員皆がそれぞれ役割を持ち、細やかに情報が循環されているところが特に強みだと思っています。
——「オーケストラを身近にする」ための新しい取り組みも始められているとか
佐々木約1年前に集客のプロジェクトチームを作りました。先ほどの小学生招待などはその成果の一つです。今後も継続して来場者が増えるよう、チラシ配布や企画面の工夫を続けていきます。
——団長の池田さんにもお加わりいただきます。裾野づくりという点では、麻生市民館と多摩市民館での年2回(4月・10月)の定期演奏会のほかに、麻生音楽祭ファミリーコンサートへの参加も象徴的ですね
池田児童合唱や映画音楽など、世代をまたぐ選曲で楽しんでいただいています。今年はブラスバンド曲をオーケストラで演奏しました。かつて吹奏楽をやっていた保護者の方からも「懐かしい」と反応がありました。大人から子どもまで、全ての世代で楽しめる場にしていきたいです。
宮地:私自身の体験談になりますが、子供のころ初めて生のオーケストラを聴いたとき“音を浴びる”体験に圧倒されました。その原体験を地元で味わってもらえる場を、麻生区で増やしたいんです。
——10月19日開催の定期演奏会についても伺います。選曲の狙いを教えてください
麻生フィルハーモニー管弦楽団第80回定期演奏会
日時:2025年10月19日(日) 14:00開演
場所:川崎市麻生市民館 大ホール(神奈川県)
詳細:https://www.concertsquare.jp/blog/2025/202509183215641.html
ブラームス :交響曲第1番 ベートーヴェン: 交響曲第1番 ワーグナー: 歌劇「タンホイザー」序曲 指揮: 中島章博
池田秋の定期演奏会は地元・麻生市民館での公演ですし、秋らしさを感じられるような名曲を中心に選曲しています。 今回はドイツ音楽を軸に、ワーグナー《タンホイザー》序曲、ベートーヴェン交響曲第1番、ブラームス交響曲第1番を並べました。ブラームス1番はオーケストラにとって“10年に一度巡るかどうか”の名曲。 曲に対する思いが先走って個々の演奏がバラけないよう、「麻生フィルのブラームス」として一つにまとめることを大切にしています。
——指揮をつとめる中島章博さんとのリハーサルで得ている刺激は?
池田作曲家が生きた時代背景や音楽性の違いを丁寧に解説してくださり、毎回のリハーサルが新鮮です。ベートーヴェンは重厚感がどうしてもイメージにありますが、今回演奏する交響曲第1番は古典寄りで、若きベートーヴェンのフレッシュさを意識するなど、曲ごとの“立ち姿”がクリアになってきました。
佐々木今回は、常設指揮者を置かない麻生フィルの独自性が特に発揮されるコンサートになると思います。指揮者も曲目も前回8月のコンサートから一新されたことで、団員も自然にスイッチできましたし、全く新しい表情の麻生フィルが見られると思います。
——次の節目へ向けた展望を教えてください
池田音楽人として、大曲に挑みたいという純粋なチャレンジ精神を反映させていきたいです。同時に、お客様が聴きたいと思われる名曲を選びたいという側面もあります。たとえばチャイコフスキーの交響曲第5番、ベートーヴェンの交響曲第7番などは演奏してみたいですね。 次の45周年記念コンサートでは、マーラーの交響曲のような大編成にも挑みたい。麻生区の皆さまの耳に寄り添いつつ、挑戦も両立させます!
佐々木45周年の節目にはミューザ川崎のような大ホールで、合唱付きの大曲にも意欲的に挑戦したい気持ちがあります。30周年で演奏したマーラーの《復活》は合唱やオルガンも加わり、非常に規模の大きい演奏会でした。それを上回りたいです!
宮地準備を整えなくちゃ(笑)私は7月の初夏に麻生市民館で毎年行っているファミリーコンサートも創意工夫を重ねて進化させていきたいなと。 「0歳から聴ける音楽を」いうコンセプトを念頭に置きながら、今まで地域の合唱団とコラボをしたり映画音楽を取り入れたり、独自視点で現在企画しているので、麻生フィルが楽しく前に進んでいけるきっかけにしていきたいです!
——最後に、読者へのメッセージをお願いします。
池田麻生フィル一丸となり、熱い思いを込めて10月のコンサートに向けて練習しています。秋の空気とともに、三曲三様の“本格ドイツクラシック”を楽しんでください!
佐々木麻生フィルを通して、コンサートは遊園地に行くのと同じくらい身近な選択肢になるはずです。初めての方こそ、ぜひ扉を開けてみてください!
宮地麻生フィルが活動している新百合ヶ丘駅周辺は、歩くだけでも音楽の気配がある街です。街歩きとセットで気軽にお立ち寄りください。“音を浴びる原体験を、ぜひ地元で”。
——本日はありがとうございました!
(インタビュー・構成/交告承已)
オーケストラ
中の人は、アマチュアオーケストラで打楽器をやっています