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ヴィブラフォン奏者・會田瑞樹が八村義夫没後40年へ寄せる思い——10月に記念リサイタル開催

2025/07/24

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1988年生まれのヴィブラフォン奏者・作曲家の會田瑞樹さんは、湯浅譲二、間宮芳生、末吉保雄など、邦人作曲家の初演を400作品以上手掛け、現代音楽の演奏活動に精力的に取り組んでいる。2025年10月3日(金)には東京文化会館小ホールにて「會田瑞樹パーカッションリサイタル2025」が行われる。前半はアジアの存命する作曲家による委嘱作品の初演、後半は没後40年を迎える八村義夫をテーマにお送りする。“初演魔”の異名を誇る會田さんに、初演を手掛けることの魅力、そして敬愛する八村義夫の魅力についてお話を伺った。

會田瑞樹
1988年12月24日、宮城県仙台市生まれ。 1988年宮城県仙台市生まれ。2010年、日本現代音楽協会主催”競楽Ⅸ”第二位入賞と同時にデビュー以降、これまでに300作品以上の新作初演を手がけ「初演魔」の異名をとる打楽器/ヴィブラフォン奏者。2019年第10回JFC作曲賞入選、2021,2023年リトアニア聖クリストファー国際作曲コンクールLMIC特別賞を受賞するなど作曲家としても活動。アルバム「いつか聞いたうた ヴィブラフォンで奏でる日本の叙情」は年間最優秀ディスクとなる第59回レコードアカデミー賞を獲得。そのほかサライ推薦はじめ各紙より絶賛を受けた。現代作品の魅力を多彩に紹介した成果により令和2年度大阪文化祭奨励賞、令和3年度宮城県芸術選奨新人賞受賞。2024年第21回イタリア国際打楽器コンクールヴィブラフォン部門最高位受賞。演奏、創作の両面からその音楽性を発揮し続けている。

“初演魔”が現代音楽を演奏する理由

——なぜ現代音楽をレパートリーの中心とされているのでしょうか?

會田20世紀に入ってから、打楽器は改良によってソロ楽器として成立するようになりました。第二次世界大戦後には打楽器のための音楽が盛んに作曲されるようになったと同時に、日本の現代音楽も進化を遂げ、お互いを触発しながら発展したという歴史があります。現代音楽を打楽器の進化と結びついた音楽として捉え、自らの演奏テーマにしたいと思ったのです。

——2012年にデビューされて以来、現在まで初演作品を400作品以上手掛けられています。手がかりになる演奏がないなかで、どのように演奏を形作られるのでしょうか?

會田僕はもともと参考演奏を聴かない主義。聴いてしまうとどうしても耳からの情報に頼ってしまうからです。「どんな音楽なんだろう」と楽譜をよく見て、どのように演奏されるべきなのかを模索します。それが楽譜を読む面白さでもあり、自分の“歌”にするための大切なプロセスだと思います。ですので、初演かどうかにかかわらず、楽譜を通して作曲家と対峙し演奏することを土台にしています。

初演を務めることは作品に命を吹き込むことでもあります。責任も伴いますが、誰も聴いたことのない作品を世に出す楽しさや、会場でどんな音楽が生まれるのかという期待感があり、毎回刺激的です。

同時に、同じ時代の音楽としての共感や、今生まれた作品が100年先まで響き渡るような強さで歌い継いでいきたいという願いもあります。プレッシャーよりも、ただまっすぐに演奏することを考えています。

——作品を提供してくださる作曲家との関係はどのように構築されるのでしょうか?

會田演奏会のときにお声がけしたり、メールではなくてお手紙を書くことから始めています。自己紹介をして、演奏会のために作品を書いていただけないかとお願いします。湯浅譲二先生や間宮芳生先生の作品もそのように生まれました。

間宮先生はお願いした当時、あまり人前に出られておらず、「このタイミングを逃したらもう叶わないかも」と思い、お手紙を書きました。先生が「連絡を取り合いましょう」とお返事をくださり《ヴィブラフォンとマリンバのための音楽》(2017/2018)を委嘱出来ました。先日、部屋を整理していたところ先生のお手紙が出てきて当時を懐かしく思いました。作品への思いを新たに演奏したいです。

理性的でもあり劇的でもある八村義夫の魅力

——演奏会の第2部では八村義夫《星辰譜》を演奏されます。八村義夫は會田さんにとってとても大きな存在だそうですね。

會田大学2年生のときに始めて出会い、そのとき聴いたのが《星辰譜》でした。ショッキングでもあり共感もできた音楽でした。現在作品は聴き辛かったり、退屈だと捉えている方も多いと思うのですが、八村作品は普遍的な美しさや、作曲家自身の心情と理性とのバランスが行き届いている音楽だと感じました。

《星辰譜》はビブラフォン、チューブラベル、ピアノ、ヴァイオリンの編成で、冒頭にチューブラベルの3分程度の独奏があります。楽器としての存在感を、美しく、禍々しく語ります。その後、ヴィブラフォンとチューブラベルは度々マレットを変えるように指示があり、求められる音色も変化します。まるで打楽器から“歌”を引き出すような指示に共感しました。

八村義夫は、僕が現代音楽を同時代の音楽としてたくさんの方に紹介したいと思うきっかけを与えてくれた作曲家です。

——八村作品にはどのような魅力を感じていますか?

會田劇的でもありながら理性とのバランスがとれた作曲家だと思います。彼自身が自作について「自分は私小説のような音楽、つまり“私音楽”みたいなものをつくっているのだ」と語っています。八村は勉強家で繊細で、しかしその生き方はドラマチックでした。だから彼自身、自分の二面性にも悩んでいたのではないでしょうか。その苦悩が彼の残した文章や楽譜から立ち上ってくるようにも思えます。激性と理性とを内包していて、苦悩している、逆行しているという状態に深く共感しています。

また彼の音楽には時折、独特な時間感覚がみられます。“without beat feeling”と指示されていて、西洋の1、2、3という拍ではない、全体の大きな流れのなかでぐっと音が立ち上がっていく感覚を五線譜で表しています。意外に思われるかもしれませんが、その土台にはブルックナーやベートーヴェンといった西洋クラシック音楽に対する深い洞察や敬意があるのです。個人的な感情と伝統への敬意を音楽にしている、そのバランス感覚が優れていると感じます。そこが僕にとって八村が特別だと感じる一つの理由です。

さらに、彼には世代的な苦悩もありました。日本の現代音楽の先陣を切った湯浅譲二、間宮芳生、黛敏郎、矢代秋雄、松村禎三などは1929年生まれで多感な時期に終戦を迎え、これまでの価値観がひっくり返るような経験をした怒りや虚しさが彼らの作曲の原動力になっています。八村は彼らの次に自分たちは何ができるのだろうと模索した世代でもあるのです。時代の色を作った先輩たちに同調するのか、はたまた少し距離を取るのか、そんな立ち位置は現在の僕らの世代にもちょっと似たところがあると感じています。

——“私音楽”というのは、“私自身を表した音楽”なのか、“私が聴きたい音楽”なのか、どちらの意味があるとお考えですか?

會田どちらでもあると思います。そして、それが聴き手にも伝わってほしいという八村の願いが、今でも立ち上ってくるように思えます。だから熱烈なファンを生むのだと思います。八村のオーケストラ作品《錯乱の論理》が以前、日本フィルハーモニー交響楽団で再演されたことがありました。演奏会当日、ロビーに《錯乱の論理》のスコアを抱きかかえて歩いている方がいらっしゃったんです。その気持に非常に共感しました。八村の曲はそういう強烈なシンパシーを抱かせるものだと感じます。

八村は作品を書き終えると、うれしくて枕元にスコアを置いて寝ていたそうです。それほどに彼自身が“私”を愛し、受け入れていた。そんな自作品への愛が素敵だとも思います。

現在、過去、未来を行き来するプログラム

——會田さんは作曲家でもいらっしゃり、10月のリサイタルでも自作曲を披露されます。作曲を始めたきっかけを教えてください。

會田作曲は中学生の頃から経験があり、自作曲を演奏してもらえる機会にも恵まれていましたが、その出来栄えにあまり満足できなかったのでしばらくは発表を控えていました。

発表しても良いのではないかと思えたのは2018年のこと。国際交流基金の活動でインドネシアの音楽家と関わる機会があり、ガムランの伝統楽器を演奏しているミュージシャンのWellyと知り合いました。彼の自由闊達な音楽への姿勢と、作曲は演奏の延長線上にあるという感覚に惹かれました。そこで、演奏だけでなく、作曲からも自分のことを感じてもらう機会があってもいいのではないかと思えたのです。

音符や和音が完璧でなくても、言葉だけでも構わない。「どんな音を出して、何を表現するか」試行錯誤し、あらゆる人が作品として発表すべきだと思っています。音楽そのものをそんなふうにおおらかに捉えることも、とても大切なことなのではないでしょうか。

——リサイタルでは《星辰譜》と同じ編成で會田さんが作曲された《酔郷譚》の初演も披露されます。なぜ同じ編成にされたのでしょうか?

會田2012年、同じ東京文化会館小ホールで「八村義夫の世界」というコンサートを開催しました。八村と八村の奥さまである内藤明美さんの作品を組み合わせたコンサートでした。それから13年後、僕自身も作曲をするようになり、こんな節目の年に、恐れ多いですが、全く同じ編成で、しかも《星辰譜》を演奏した後に、どのような心境で自分の創作物を発表できるかということを試してみたくなったんです。

それはある意味、八村に手紙を書くというか、直接お会いできなかったからこそ、音楽上で対話をするという試みでもあります。

——リサイタルでは湯浅譲二、間宮芳生作品の他に、アジアの作曲家作品の初演も行われます。

會田昨年亡くなった湯浅譲二先生、間宮芳生先生とはさまざまな形で関わらせていただきました。感謝の思いと、これからも演奏され続けてほしいという願いを込めたいと思います。

前半はタイの作曲家仲間のピヤワット・ロウイラー・プラセルトさんや、アメリカ在住のジャン・パトリック・ブサングランさん、佐原詩音さん、藤枝守さん、水野修孝さんの作品を並べることで多様な国の文化的な交差点となっている今現在のアジア、そして東京、を表現したいと思っています。

こうして自由に演奏会が開けるのは東京ならでは。日本に住んでいると当たり前のことのように感じてしまいますが、いろいろな国の音楽家たちと話すと、その自由がいかに尊いことなのかを実感します。そういった「表現の自由」を大切に、活かしていきたいですね。それを強みに、世界中の作曲家との協働を継続したいと思っています。

今回の演奏会は現在、過去、未来が交差するようなプログラムになっています。ぜひ会場でそれを感じていただきたいです。

(取材・構成/東ゆか)

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